京都大学大学院理学研究科附属天文台は1929年10月に京都市の東山連峰の一角に京都帝国大学花山天文台として設立され、1958年4月に現在の組織となる京都大学理学部附属天文台となりました。その後も整備が行われ1968年には飛騨天文台を設立し7台の望遠鏡を有する国立大学として国内最大級の天文台に発展、また東アジア最大となる3・8m新技術光赤外線望遠鏡を岡山県浅口市に現在建設中であり、2017年度にファーストライトを迎える予定です。このように京大天文台は設立以来、約100年間、わが国の天文学拠点の一つとして、多くの研究者を輩出し天文学の世界で重要な役割を果たしてきました。
現在、附属天文台は太陽・恒星観測とデータ解析及び理論数値シミュレーション研究を中心として、大学院学生と学部学生の教育実習施設の役割を担っています。とりわけ太陽及び宇宙プラズマ活動現象を中心とした天文学ならびに宇宙環境科学の世界的な拠点として教育研究を推進しています。 また、1929年の花山天文台設立当初から当時ではめずらしく、市民を対象とした観望会などの普及活動を積極的に行い、日本のアマチュア天文学の聖地と呼ばれる存在となりました。この伝統は現在にも引き継がれ、小中高校生や他大学の学生の見学・観測実習、教育関係者の研修をはじめ、様々なグループの見学も受け入れるなど、天文学の研究成果を社会へ還元するための活動を積極的に行っています。近年では、花山天文台には年間約3000人もの方々が訪れています。その約半数は小中高校生であり、子どもたちが宇宙や科学に触れ、知的好奇心を育むためにも大きな貢献をしています。 しかし、大学を取り囲む情勢は厳しく、あらゆる組織・分野において、予算・人員を有効利用する改革の必要性が認識されています。天文台においてもこの事情は変わらず、来年度の岡山3・8m望遠鏡の観測開始に合わせて、花山天文台の運営費の大半(1500万円)を岡山3・8m望遠鏡の運営費に移算することになりました。これにより、来年度からは花山天文台に人員を常駐させることができなくなり、これまでのような見学会や観望会を継続的に開催することは困難となりました。
このような折、教育関係者や市民の皆様から、「花山天文台を存続させ、見学会や観望会を引き続き開催してほしい、これまで以上に多くの小中高校生を見学会・観望会に招いてほしい」などと、多くの要望を受けました。これを受けて京都府・京都市や教育関係者、産業界、そして天文学を愛する様々な方にご相談したところ、多くの方が花山天文台の存続と活用に立ち上がって下さり、2年間の準備的相談ののち、「花山天文台の将来を考える会」(代表:尾池和夫・京都造形芸大学長・前京都大学総長、副代表:土井隆雄・宇宙飛行士・京都大学宇宙総合学研究ユニット・特定教授)を発足して頂けることになりました。 本会は、まずは、現在の花山天文台における市民のみなさんや小中高大学生への見学会・観望会・実習などを続けるのに必要な人員配置予算(年間1000万円)の確保のための様々な活動(寄附集めなど)に協力して下さいます。さらに、花山天文台を長期にわたって維持運営するための仕組みとして、宇宙科学館・インキュベーションセンター構想を、提案頂いています。これは、民間からの大型寄付(10億―20億円規模)をベースに、花山天文台に毎日でも子供たちが見学可能な4次元宇宙映像シアターなどをそなえた宇宙科学館や、野外コンサートが可能な多目的広場、さらには、京大で開発された技術を応用する望遠鏡製作現場を見学できる施設などを含むもので、京都ならではの千年の過去から千年先の未来―人類の宇宙進出―を展望する文化拠点です。これらを、産官学連携で設立する新たな法人が運営する計画となっています。
京都大学としては、現存の花山天文台の建物や施設を劣化させないため、および必要に応じて見学会や観望会が開催可能となるような最低限のメンテナンスのための光熱水費については、今後も引き続き支出する予定としており、今後、上記のような大型計画を支援する企業あるいは個人の方が見つかった折には、京都大学の教職員がこれまで同様に協力する所存であります。また、このような大型計画が走らない状況でも、年間1000万円の支援があれば、現在の歴史的な望遠鏡観測装置施設は、小中高大学教育や市民見学会のために活用できますので、京都大学としても可能な限り、花山天文台におけるこれまで同様の教育普及への貢献は続ける所存であります。
つきましては、京都さらには日本を代表する歴史的天文台としての花山天文台を今後とも存続させ活用できますよう、「花山天文台の将来を考える会」の趣旨にご賛同賜り、皆様からの温かいご支援、ご協力を賜りますよう謹んでお願い申し上げます。
平成二十八年十二月
京都大学総長 山極壽一
理学研究科長・理学部長 森脇 淳
附属天文台長 柴田一成